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第2回 フリースクールの実績に社会が向き合うとき開かれた学校、行政との連携が求められている
NPO法人 楠の木学園 理事長 武藤啓司さん
前半戦は「基本的な方向性について」行政は選択肢を増やせるか
検討会議の大きな論点は、今後行政が助成も含めてどのようにフリースクール等を支援していくか、また、その際に各機関や団体の自主性や多様性が担保されていくのかという点です。前半戦が終わった今、議論は少し煮詰まった状態という感覚ですかね。というのも、僕らフリースクールはいつも財政的にピンチです。「お金が欲しい」というのが正直な話なのですが、現実的にその主張だけでは状況は動かない。ですから、今は考え方や方向性を固めていったところで、具体的な支援の話までは進んでいません。方向性としては、「団体への財政的援助」という視点から問題を立てるのではなく、「不登校などで学習の機会を失っている子どもを支援する」という視点で考える、ということで意見がほぼ一致してきたと思います。つまり、フリースクールそのものへの支援ではないということですね。フリースクール等を選ぼうとする子どもをどう応援するかといった発想です。そこには家庭学習も含まれてくる。
ただ、そこで問題なのは、実際に支援を行ったとき、子ども自身に選ぶメニュー(機関・団体)があるかどうかという点です。都市部など支援機関が充実した地域ならば選択肢はあります。でも、小規模の自治体にフリースクールなどありませんから、選びようがない。その場合は、行政がある程度メニューを増やすことも考えられるかもしれません。
学校外でのメニューともなれば今のICTを使ったオンライン学習やインターネットを介したホームエデュケーション(家庭学習)も考えられます。しかし、そうした具体的な議論に進まないのは、そこまで話し合ってしまうと、「では、それを誰がやっていくのか?」などと話が複雑になってきてしまうからです。ですから、あくまで前半戦は基本方針を固めるといったところなのです。
多様な学びに行政介入はあるのか。現実の問題に、いかに向きあえるかが課題
これから課題になるのは、フリースクール等を制度上どのように位置付けて、社会がどう認めていくかです。義務教育の場としての法的根拠としては、超党派の議員連盟が法案をつくり、今国会での成立を目指して動いています。フリースクールには、これまで認証、信頼度、卒業資格の課題がありました。例えば、一般的にフリースクールに通う小中学生は在籍校の校長裁量で出席扱いになる。しかし、これに関して、フリースクール側にもいろいろと不満があったわけです。
私たちは、子どもの出席を認めてもらうために学校へ何度も届け出を出したり、頭を下げたりしてきた。学校としても、実際に顔も出していない生徒にどうして出席扱いや卒業証書を出さなければいけないのかという気持ちもある。そのあたりの整合性をどのように取っていくのか。会議では、私から「各自治体の教育委員会による認証というのはどうか」との提案を出させてもらいました。私の場合、「横浜市子ども支援協議会」で市の教育委員会と連携してきた経験がありましたので、そういった発想があったのです。それぞれのフリースクールが卒業証書を出すことへの裏付けになるのではないかと。その意見に関しては、多くの委員の反応もかなり好意的な感じを受けました。
そこでの問題は、資格の認定にかかわって教育委員会の介入があるのではということ。フリースクール側からは、運営や支援方法に行政介入を受ける不安が出てきます。そのときに、どこまで各機関の自主性が保障されるのか。また、行政側からしても、新たに仕事が増えるわけですから、人手や負担といった具体的な課題が出てきますよね。もし教委が認証すればフリースクールの社会的地位が認められたことになるが、学校としても大きな抵抗感、不安感を抱くのではないでしょうか。「無理して学校に通わせなくてもいい」ということになり、ますます不登校が増えてしまうのではないか。学校の生徒数が減ることで、それに伴い、教員数も減らされるのではといった懸念を持たれる向きもあるようです。
フリースクール側にしても、行政介入で心配なのは学習指導要領です。文科省は、これまでずっと指導要領に沿った学習を指導してきたわけですから、ここで「その他の学び」を認めてしまえば、指導要領の枠外で良いと認めるかたちになる。すると、これまで自民党が行ってきた文教政策に大きな転換が起こります。まったく違った思想、価値観を持ったフリースクール等への支援が現実味をおびてきたとき、果たして保守派がどんな反応を見せてくるのか。ただ、下村博文文科大臣は、昨年11月の「全国フリースクール等フォーラム」の中で「21世紀に画一的な教育は通用しない」といった内容も話されている。そうした問題意識であれば、既存の教育制度のままではいけないといった感覚はあるはずです。不登校問題についても、これまで学校にカウンセラーを入れるなど、10年以上にわたって大きなエネルギーを費やしてきた。でも、基本的に不登校は減りませんでしたよね。つまり、根本的に学校制度に課題があるわけです。そのことと向き合わずして、やみくもに対処療法で不登校の数を減らそうとするのでは済まなくなってきたのです。ある意味、そうした現実に対する度量と先見性が試されています。
その反面で、フリースクール側の質も問われることになるでしょう。問題の根本は学力ではなく、それ以前の「意欲」です。意欲が奪われさえしなければ、勉強はいくつになってもできるはず。学習の質を問う意見の根底には、例えば「職員は教えるための資格や免許を持っているのか」などといった発想があります。だけど、免許などといった資格は基本的に関係ない。それよりも、活き活きとした生命力や学びへの好奇心を持てて、意欲を削がれないことが大事なのです。そのあたりを評価基準にしてもらわなければなりません。
同時に、対応する教育委員会や行政の担当者が、どこまで子どもの個人差や発達の多様性について理解できるのか。私が関わる横浜市や神奈川県においてはその理解は進んでいると思う。もちろん、いろんな関係者と個人的に話す中では、みんな理解はある。しかし、それがなぜか行政や学校といった公的な場になると硬直した対応となる。多様な価値観や柔軟性のない人は、未だに杓子定規で、相変わらず共通テストの点数を教育の重要な評価基準だと思っています。そのあたりの感覚をどう変えていくかも課題になるでしょう。
フリースクール利用財政負担。義務教育無償との公平性は一番の問題
もともと楠の木学園は、一部上場企業が社会貢献の一環で施設の提供や運営を支援してくれていました。しかし、バブル崩壊の影響で企業は支援から撤退し、その後は約20年、自力で運営を続けてきた経緯があります。その期間で運営が完全に自立できたかというと、そんなことは決してない。もちろん、教育としての実績は積み上げてきましたが、保護者からの授業料と後援会などの支援によっての運営です。職員は毎晩遅くまで働き、驚くほどの低賃金で頑張ってくれています。まさに現状はブラック企業そのものです。しかし、みんな熱意と志で働いてくれています。そうした想いに何とか報いてあげたい気持ちです。だから、財政支援は私たちにとっては切実な問題なんですね。
これまでの議論の対象が義務教育の子どもたちに限定されているという状況があります。楠の木学園もそうですが、多くのフリースクールには高校生が通っている。これまでの論議は、義務教育は本来無償だから、フリースクールに通う子も無償にすべきというもの。高校は本来義務教育ではなく、有償だから、今回の論議の対象とはされていない。検討会議の最初の回に、ある委員からそのことについて指摘されましたが、なんとなくその議論は棚上げになったままです。
ただ、義務教育無償との矛盾は、私も一貫して訴えてきたことです。義務教育は本来無償なのに、なぜ楠の木学園に来る子は、毎月何万というお金を払わないといけないのか。そうなると経済的に余裕のある家庭の子どもしか通えなくなる。それはやはりおかしいわけです。さらに実際には学校に通っていないのに、通っていないぶんのお金はその子に還元されていない。これは、私がフリースクールに携わってからずっと疑問に思っていたことです。フリースクールの利用が公平性に欠けている事実は一番の問題。せめて、そのお金は子どもに還してあげて欲しいと思う。しかし、先ほども話したように、検討会議でまだお金の話は出ていない。お金の話は議論を難しくするし、そもそも財政の話は財務省だから、文科省ではどうにもならないということでしょうか。
会議では、基本的にフリースクールをひとつの選択肢として認めていく方向に目立った反対意見はありません。委員にはフリースクール関係者だけでなく、教育委員会や適応指導教室のメンバーなども名を連ねています。実際にフリースクールが認められていくには、まずフリースクールは「学校」と対立的な存在ではないことを理解してもらうことが重要だと思います。フリースクールの側から見て、学校は子どもたちの学びの場としては、宝の山のような存在です。学び育っていくうえで必要なすべてが用意されているように見えます。そうした施設の中で、子どもが幸せを感じられないことが大きな問題なのです。学校に通うことで命を失う子どもも後を絶ちません。しかし、崩壊消失していく地域社会の中で学校は共同体の要のような役割を担っているもの。それは地域をつなぐ原点、砦のようなものでもあります。だから、それは大事にしていなければならない。そうした貴重な存在であるからこそ、親も子も「学校に帰りたい」「帰らなければいけない」といった思いも強い。だから、学校は帰りやすい場所であり、「はじき出さない」(インクルーシブな場)とならなくてはいけないのではないでしょうか。また近年、家庭の崩壊的状況のために不登校になってしまう子どもが増えてきています。子どもたちを取り巻く状況が多様化、重層化してきている現実に学校が対応しきれなくなっていると言えるでしょう。地域の子どもたちの育ちの責任をすべて学校が負わなくてはならない時代は終わったのではないでしょうか。その多様性に対応できる地域の資源の支援を受けることで、学校はもっとオープンで、伸び伸びと、柔軟な学びの場となることもできるのではないでしょうか。
フリースクール等に関する検討会議
平成26年7月の教育再生実行会議第五次提言を受け、「フリースクール等で学ぶ子供たちの現状を踏まえ、学校外での学習の制度上の位置付けや、子どもたちへの支援策の在り方について検討を行う」とし、同年11月に文部科学省としては初となる「全国フリースクール等フォーラム」を開催。以後、これまでに4回の有識者会議が行われている。同会議は今後中間報告をまとめ、本年度内には最終的なまとめを行う予定。現在は超党派議員連盟の法案成立に向けた動きもあることから、会議は休止の状態となっている。
6月10日(水)、東京都千代田区で行われたシンポジウム「教育制度の多様性」(主催:新しい学校の会)の中で行われたパネルディスカッション「教育バウチャーとフリースクール」では、パネリストとして登壇した。
【検討委員】五十音順 敬称略 生田義久(前京都市教育委員会教育長)、植山起佐子(CPCOM 臨床心理士コラボオフィス目黒 臨床心理士)、奥地圭子(NPO法人東京シューレ理事長 NPO法人フリースクール全国ネットワーク代表理事)、加治佐哲也(兵庫教育大学学長)、金井剛(横浜市こども青少年局児童相談所統括担当部長 中央児童相談所長 児童精神科医)、菊地敬一郎(仙台市適応指導センター「児遊の杜」所長)、品川裕香(教育ジャーナリスト)、白井智子(NPO法人トイボックス代表理事 スマイルファクトリー校長)、永井順國(政策研究大学院大学客員教授)、友野晃(福岡県教育庁理事)、西野博之(NPO法人フリースペースたまりば理事長 川崎市子ども夢パーク所長 フリースペースえん代表)、宮澤和徳(長野県辰野町教育委員会教育長)、武藤啓司(NPO法人楠の木学園理事長)、横井葉子(上智大学総合人間科学部社会福祉学科助教 スクールソーシャルワーカー)
【School Data】
特定非営利活動(NPO)法人 楠の木学園
〒222-0036 神奈川県横浜市港北区小机町2482-1
TEL:045-473-7880
http://www.kusunoki-gakuen.jp
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